転生とステータス変更
裏組織『キネルロス』のボスであるグロダは本名を黒田正弘という。
新潟県出身で東京の理系の大学を卒業し、ゲーム会社のプログラマーとして働いていた。
会社の環境は俗にいうブラックであり、だからこそ黒田は『その時』の事を鮮明には覚えていない。
五日間の徹夜作業、痛む頭、苦痛を通りこし空虚な精神状態。会社パソコンの無機質な画面に向かって最後のコードを叩き込み、気を失ったのか、それとも眠りについたのか――気がつけば、そこは見知らぬ街だった。
まるで観光地のような壮麗な城、石畳の大通り、鉄の鎧に身を包んだ衛兵たち。
その街は黒田が手がけていた、大昔の大ヒットファンタジーゲーム『アビスファンタジア』のリメイク版そのものだった。
はじめは夢だと思った。すぐに現実に戻れるのでは?と期待したが、どうやらそんな甘い話では無かった。
黒髪黒目というだけでどこへ行っても危険視され、ついには衛兵に囲まれ投獄されてしまったのだ。
黒田の放り込まれた地下牢はとにかく寒かった。冷たく湿った石の壁、そして重い鉄格子。耳を澄ませると、遠くからかすかに聞こえる水滴の音、どこかから漏れてくる薄明かりだけが、牢獄の全てだった。
黒田は確かにその噂を聞いてはいた。
大昔のゲーム『アビスファンタジア』のプレイ中に突然死する事例が多発していたと。
死んだ者たちはみな極度のゲーマーで、一様に満足げな表情を浮かべていたと。
『アビスファンタジア』を休まずに666時間以上プレイすると、ゲームの世界に引きずり込まれると。
もう30年も前に発売されたゲームだ。所詮は都市伝説の類だろうと高をくくっていた。
『あいつはきっとゲームの世界にいったんだ』、アビスファンタジアのプレイヤーの死を追うオカルト雑誌の特集でそんな遺族の言葉が載っていた。
「・・・クソッ、何だこれは」
怒りが沸騰していくのがわかる。何もかもが理不尽だった。
他のプレイヤー達は自業自得、満足してこの世界に来たのかもしれない。だが自分は違う。
黒田はただ、与えられた仕事をこなしていただけだ。それが今、こんな目に遭っている。
これからどうなるのだろうか?黒髪黒目のプレイヤーの噂はここに投獄されるまでに聞いた。
恐ろしい力で、散々欲望の限りを尽くして、秩序を乱し、やがて討伐される。
『アビスファンタジア』は、古き懐かしきソロプレイのファンタジーRPGだ。
これまでこちらに来た奴らは自分がプレイした『主人公』としての能力値をもって、こちらに転移してきているのだろう。
だが黒田は違う。筋力も普通、試してみたが魔法も全く使えそうになかった。
黒田だけは剣も魔法も特殊な力もゲームの身体能力も無い、ただの三十歳がらみのサラリーマンでしかない。
「俺がゲームをプレイしてないからか?」
確かにそうかもしれない。
牢獄の冷たい石の床に座り込む。
自分がプレイヤーではない事を、なんの力も無い事を衛兵達に証明できれば、あるいは解放されるのかもしれない。
だが、そんな事可能なのだろうか?力が無い事を証明するのは、有る事を証明するよりはるかに難しい。
だが上手く解放されても、その後どうするのか?
なんの力も無いまま、このファンタジー中世の世界で生きていけるのか?
どんどん絶望的な気分が増していく・・・。
ふと牢獄の隅を見る。どうしても口に出来なかったカビの生えた硬いパンが置いてある。
こんなパンでもこの世界では普通の食事のようだ。
・・・どう考えても明るい未来が想像できない。
「どうして、こんなことになっちまったんだ・・・」
苦々しく呟きながら、鉄格子を握りしめ、力任せに引っ張る。しかし、当然、扉は開かない。
「こんなのバグじゃないか?!せめてプレイヤーに設定しろ!」
黒田は世界の設定を呪い、絶望した。
そして、そのときだ。
黒田の視界の隅に、透明なウィンドウが、空間に漂うように現れた。見覚えのある文字が浮かび上がっている。
「ディバック:設定変更」
その文字を目にした瞬間、黒田は目を見開いた。そして、すぐにその意味を理解した。これが、自分が使っていたディバック用の管理画面だと気づいたのだ。
黒田は見慣れたそのフォントに懐かしさと、そしてどこか恐ろしい予感を感じた。
「これは!これはそうなのか?」
試しに先ほどのパンを手に取り『カーソル』をあてる。
アイテム名: マズい石のようなパン
アイテムタイプ: 食料
レアリティ: H
価格: 1ゴールド
HP回復: +2
MP回復: 0
「では設定を変更して」
アイテム名: 美味しい最高級パン
アイテムタイプ: 食料
レアリティ: F
価格: 8ゴールド
HP回復: +16
MP回復: 0
管理画面の中のステータスが変更される。
特に外見の変化はない、せいぜいカビがなくなったぐらいか。
ただ・・・
端を齧ってみる、先ほどは石のように固く歯が立たなかったパンが普通に齧り取れた。
味は・・・
「まあ、日本の普通のパンぐらいだな。この世界だと最高級でもこんなものか」
だが・・・。
彼はウィンドウに手を伸ばし、今度は「扉」そして「施錠状態」を選択する。軽く指先でその設定を変更するだけで、牢の扉はゆっくりと、音も立てずに開いた。
あまりに簡単に、・・・想像以上に簡単に、檻の扉が開いた。
「これは、ゲームの設定変更画面なのか?」
(そうだ、おれはプレイヤーじゃない。プレイヤーなんかではない)
意味を理解するとすぐに混乱や恐怖はどこかへ消え去り、代わりに心の底から何かどす黒いものが浮かび上がってきた。
「フヒッ、ハハァヒヒハハハハハァァ」
知らずに口から笑い声が漏れる。
「俺はっ!俺はゲームマスターだ!」
黒田の心に、冷酷な喜びが広がった。こんなものもはや世界を弄るようなものだ。
今の自分がどれほど強いのか、その空想にゾクゾクと快感が走る。
黒田は開いた扉から牢を抜け出す。暗い廊下を歩きながら、次々に思案が浮かべる。警備兵をどうにかする方法、ここから脱出する方法、そして最終的にこの世界をどれほど支配するか。全てはこの力にかかっている。
黒田の目は、ますます冷徹で邪悪な光を宿し始めた。この力を使えば、この世界で何でもできる。何もかもが、彼の手のひらの上で踊らされるだけだ。
おそらく他のプレイヤーと同じように、現実の黒田はもう死んでいるのだろう。
二度と地球に帰る事は出来ないのであろう。
「・・・だがよい、ここが俺の世界だ」
彼は冷たく笑う。その笑みには、今まで感じたことのないような、支配者の余裕と欲望が滲んでいた。
こうして黒田正弘は『アビスファンタジア』のグロダに生まれ変わったのだ。
転生したグロダがまず行ったのは自分の能力の確認である。
グロダはゲームプログラマーとはいえ、この世界の全ての『モノ』が変更できるわけでは無い。
彼が出来るのは、自分で触る事が出来る物、さらに固有の物体のみであった。
例えば石ころを金貨に変えることは出来たが、国家の財政を豊かに変える事は出来ない。
王様を貧民に変更する事は出来るが、王制その物を変更することは出来なかった。
ただし、ゲームの設定に無い内容を変更する事も出来た。
例えば、本来この『アビスファンタジア』には『空腹度』の設定は無いが、ステータスで検索しゼロにする事で、飢餓状態にする事が出来た。
キャラクターに対しては他にも愛憎の感情や、身長・体重、忠誠心、食べ物の嗜好など個別の設定ならなんでも変更できた。
もちろん、性的嗜好や淫乱度なども・・・。
そこでグロダは気が付いた。おそらく自分は『ゲームのアビスファンタジア』では無く、そのゲームを元にした『現実の異世界』に転生したのだと。
・・・グロダがこの世界に転生して10年。彼は『設定変更』という異能を駆使し、裏社会の支配者へと上り詰めていた。
まず彼が目を付けたのは、闇取引の世界だった。自ら設立した組織『キネルロス』を拠点に、強制的に忠誠心を高めた部下たちを従え、都市の地下経済を支配していく。
特に彼が開発した魔薬ポーションは、この世界には存在しなかった強力な作用と依存性を持ち、多くの者を意図的に中毒へと追い込んだ。
勢力が拡大する中、グロダは次なる支配の対象を奴隷市場へと定めた。裏側で暗躍する商人たちと接触し、能力を用いて商人たちに恐怖と忠誠心を植え付け、詐欺が横行していた市場を「信頼できる取引を保証する場」へと変貌させた。
こうして『キネルロス』は薬物と奴隷供給を独占し、裏社会における圧倒的な支配力を確立する。
しかし、グロダの目的は単なる富や権力ではなかった。彼が望むのは、この世界そのものを、自らの思い通りに作り替えることだった。
なぜならば、彼は勇者になるべき『プレイヤー』ではない。
この世界を作る『ゲームマスター』なのだから。
『キネルロス』・・・それはチーターを意味するギリシャ語である。
グロダは突入してきたセレナとカレンを無力化すると、二階の部屋の窓から表の路地へ飛び降りた。
音も無く地面に着地すると、先ほどセレナに蹴破られた入り口から、ゆっくりと自宅へ侵入する。
一階では数名の騎士団員が、待機と証拠物色をしていた。
ガタンとわざと物音を立てて、騎士達の注意を引く。
騎士団の精鋭達はこの黒い闖入者に一瞬混乱するが、直ぐに剣を構え切りかかってくる。
グロダは騎士団の反応を超える速さで動き、彼らの間を縫うように走り軽くタッチする動きを取る。グロダに触られたものは無意識のうちに足元をふらつかせ、次々とその場に倒れ込んだ。
一階の騎士団はすぐ壊滅し、グロダは同じように建物周囲を警戒していた騎士達を殲滅していく。
全員が無力化されたことを確認すると、グロダは気絶したセレナ以外の騎士とカレンを一階の広間に集める。
グロダの『能力』で強力な催眠状態にある彼らは、まるでマネキンのように等間隔で並んで立っていた。
グロダは静かにため息をつき、続けて騎士達に設定を与える言葉を口に出す。
「アジトの制圧は完了した。敵のボスは無事に捕らえたが、セレナ隊長は敵の魔法毒を受け治療院で一ヶ月間の治療が必要となった。魔法毒は伝染性があるため、誰もお見舞いには行けない」
その言葉に反応した騎士団員たちは、設定による超強力な催眠状態により、記憶が改竄され、全てを事実として受け入れていく。
「敵のボスは、そうだな・・・カレン、帰り道最初に会った一人歩きの男を捕まえて逮捕しろ」
催眠状態にあるカレンが大きく頷く。
「騎士団の地下牢に入れて、組織の秘密を吐かせろ。最初はシラを切るだろうが、毎日拷問すればその内に自分が裏組織のボスだと認めるだろう。とりあえず今日の任務は終了だ解散!」
ぞろぞろと11人の騎士達がゾンビのように邸宅を後にする
それを見ながらグロダは満足げに一度頷き、二階へと上がっていった。
グロダは気を失ったセレナをかかえながら、古びた階段を2階から3階へと一歩一歩上がっていった。
『設定変更』で強化されたグロダの腕はオーガをも超える力強さが宿っている。もっとも、今その力で支えているのは、ただの無防備な若い女性だ。
それを麻袋でも運ぶかのようにぞんざいに肩に担いでいる。
三階へとたどり着き、『特別な客間』 の扉を開ける。
この部屋は、グロダが女を調教する時に使う調教室だ。
シンプルながらも清潔感のある内装であった。
木製の家具は自然な風合いを保ち、窓から差し込む柔らかな月の光が白いカーテンを透かして部屋全体を穏やかな雰囲気に包んでいる。
部屋の中にもいくつか扉があり、どうやらトイレや浴場も完備しているようだった。
中央に鎮座しているのは大きなキングサイズのベッド。部屋に不釣り合いの大きなベットが、唯一、この部屋を調教室であると主張しているようだ。
「この部屋を使うのも久しぶりだな」
グロダはそう独り言を漏らしながらも、セレナをベッドに投げ入れるように下ろした。ベットの上で、セレナの体大きく跳ねる。
「ん……」
セレナは微かにうめき声を漏らしたが、それ以上目を開けることはなかった。
「・・・さて、では始めるか」
誰に言うでもなくつぶやきながら、グロダは寝ているセレナの額あたりに手を伸ばした。
《アーマーブレイク》
グロダの指先に魔力が一瞬集まり、セレナにぶつかる。ガチャリという音がしセレナを覆っていた銀狼騎士団の鎧が外れた。
『設定変更』を使ったのではない、ただの武装解除の魔法である。
グロダは自分自身の能力も『設定変更』で大幅に強化しており、ただの魔法ですら極大の効果を発揮できるようになっていた。
外れた鎧と服を脱がし部屋の隅にかたづけると、そこには圧倒的な美少女がベッドの上に全裸で横たわっていた。
グロダはベッドに横たわるセレナを静かに見つめた。
月光に照らされた彼女の寝顔は、奇跡のように美しく繊細だった。
気品ある鼻筋と、わずかに開いた桜色の唇が無防備な魅力を放ち、細く整った眉が優雅なアーチを描き、閉じた瞼の下には深い蒼の瞳が隠れている。
柔らかな乳房が寝息に合わせて上下し、清純さと卑猥さを同時に漂わせる。そして柔らかな乳房の先端にやや大きめの乳輪と桜色の乳首がちちょこんと乗っている。
くびれた腰としなやかな手足は、少女の儚さと大人の色気を併せ持ち、神秘的な輝きを放っていた。

「流石はネームドキャラクターと言ったところか。・・・いや、ネームドキャラクターの20年前か」
グロダがこちらの世界に来て、気が付いたことがもう一つある。
どうやら自分は本来の『ゲーム開始』の約30年前に転生したらしいという事だ。
調べてみると、地球からこちらに来た『プレイヤー』の記録は500年以上前から確認されている。
どうやら転生者は『アビスファンタジア』のメインストーリー開始に合わせて転生されるのではなく、この世界の時間軸にランダムで飛ばされてきているようだった。
グロダはその中で、たまたまゲーム開始の30年程前に転生したのだ。
そして転生から10年の月日が経っている。つまり今は本来のゲーム開始の約20年前になる計算だ。
本来の『アビスファンタジアのセレナ』は、30歳代後半の『高圧的な騎士隊長』として登場し、主人公に必殺技と『魔族』に滅ぼされた銀狼族のかたき討ちを託して死んでいく役割である。
故郷の銀狼族の村は、魔族の襲撃によって一夜で滅ぼされ、復讐の念に囚われ続けていた彼女は家族はおろか信頼できる仲間もおらず、楽しみも喜びも知らぬまま孤独に戦い続けており、最初は主人公にも辛くあたる。
いくつかのイベント後、打ち解けて仲間になった後すぐに、魔族の仕掛けた罠にかかった主人公たちを庇って命を落とす、そんな救いのないキャラクターがセレナだった記憶がある。
グロダは規則正しい寝息を立てるセレンの怜悧な美貌をあらためて観察する。
(ゲームの中でも『年増の美人』とか『綺麗なおばさん』とか形容されていたセレナだが、若い時はこれ程の美少女だとはな・・・)
なぜかいたたまれなくなり、裸体で横たわるセレナに薄手のシーツを掛けた。
グロダはフッーっと深く息を吐き出し、顔を上げた。
(さて、この女をどうするかな?)
セレナ達の騎士団にとっては計画通りの行動だが、グロダにとっては突然の襲撃である。
『アビスファンタジア』の『セレナ』というキャラクターについてなど、グロダは先ほどまで忘れていた。
(この女を性奴隷に調教する。それはもう確定している。)
グロダは元々非常に嗜虐心の強い性癖だ。
地球にいたころから、女を凌辱し調教するゲームや小説・漫画を無数に楽しんできた。
こちらの世界で、『設定変更』の能力を得て奴隷市場を支配してからは、その能力と権力で幾人もの美女を調教し、奴隷に堕とし好き放題に嬲り弄んできた。
中世レベルの文明で、科学技術も文化も料理もあらゆる娯楽が地球よりはるかに劣ったこの『アビスファンタジア』への転生も、その美女を堕とす調教の悦びだけで後悔がないほどだ。
(先ほど騎士団を帰らせ、一ヵ月ほどの時間を作った。これでこの女を一ヵ月程調教する時間がある。・・・問題はだ)
問題は、どのように調教するかである。
グロダの『設定変更』は外見や能力の改変は容易だが、性格や嗜好そして性癖に手を加えるのは危険を伴った。
変更された者は当初順応しているように見えるが、無理に作られた設定との矛盾が精神を蝕み、廃人になる者もいれば、感情が死に、ただ指示を待つだけの人形的な存在となる者もいる。
この代償の大きさに。過去何度も後悔を経験していた。
(だから最初から無理に服従心を最大は出来ない。この女のパーソナリティに合わせて『設定変更』で土台を作り、調教を通じて心から服従させなくてはならない)
難しい条件ではあるが、グロダはこのゲームを気に入っていた。調教と設定変更を連環させながらどんどん美女を牝に追い込んでいく。
それこそが自分にとって最高の遊戯であると思っている。
「さて、まずは現状のステータスを見て見るかな・・・」
名前:セレナ・ソティス・ルプス
年齢:18歳
身長:164cm
体重:54㎏
スリーサイズ:
B(バスト):92センチ
W(ウエスト):58センチ
H(ヒップ):90センチ
種族:獣人種:銀狼族
所属:セドリック王国近衛兵団 第4騎士団 白翼騎士団
職業:セドリック王国 騎士隊長
職能:魔法剣士
称号:騎士隊長 魔法剣士 剣聖
「ここまでは年齢以外ゲームで見た通りだな、レベルはどんなだ」
グロダは一人ごちると、『設定変更』の能力で目の前のパネルからリンクを開き、別の画面を表示させていく。
レベル: 37
HP:2377
MP:850
攻撃力: 380
防御力: 270
魔力: 228
魔法防御力: 191
敏捷性: 356
「・・・流石だな、すでに今まで見たどんな騎士よりもレベルが高い」
若さに似合わぬレベルの高さに、グロダが感嘆する。
「攻撃力とスピード特化の先制攻撃タイプか、自分の種族の特性をよく分かっている」
この年齢でこのレベルに達するには、どれ程の努力と研鑽を積み重ねてきたのだろうか。
一族の復讐のため、遊びもせず恋もせず、全てを投げうって力を積み重ねてきたのであろう。
「なので、まずその牙を抜かせてもらう」
そう言ってグロダが恍惚に歪む笑みを浮かべながら『設定変更』のパネルを操作した。
レベル: 1
HP:36
MP:24
攻撃力: 10
防御力: 2
魔力: 6
魔法防御力: 1
敏捷性: 8
セレナのレベルが37から一気に1に引き下げられ、圧倒的な力が次々と奪われていく。
一瞬で彼女の今までの血のにじむような努力が、全くの無意味なものにされていった。
通常、成人はレベル5程度に達する。レベル1というのは、まだ幼い童女程度の能力でしかない。
セレナはもはや町の男にすら抵抗できないほど弱体化され、文字通りか弱い乙女に堕とされてしまったのだ。
「うーん」
無意識のうちでも本能的な抵抗があるのか、意識の無いセレナが眉を寄せ少し呻いた。
(・・・HPだけは少し戻しておくか、これから体力も使うだろうしな)
グロダはそう考え、HPだけを300程まで平均的な成人女性程度に修正する。
「さて次は種族と属性だな、ここが重要だ」
そう言ってステータスを開く。本来「アビスファンタジア」内では設定されていない項目が、グロダの能力によって表示されいく。
それらの項目を整理しながらこれかの調教に必要内容が表示さえるように並べ替えていく。
体力:365
精神力:458
肉体状態:正常
精神状態:正常:気絶
種族:獣人種:銀狼族
所属:セドリック王国近衛兵団 第6騎士団 白翼騎士団
職業:セドリック王国 騎士隊長
職能:魔法剣士
称号:騎士隊長 魔法剣士 剣聖
肉欲感度:3
奉仕技能:0
恥辱感度:0
被虐感度:2
尻穴感度:0
愛情度:0
気品:284
誇り:369
勇気:325
「性的経験はほぼゼロか。そして、この心の気高さ、流石だ」
気品、誇り、勇気――これらのステータスがここまで高い者を、グロダはかつて見たことがなかった。
精神の美徳値がこれほどの高さで均衡しているなど、王族や聖女でもいない。
それは彼女が積み重ねてきた生き様、背負ってきた苦難、そして貫き続けた信念の証なのだ。
美しさは外見だけにとどまらず、その魂にこそ宿るのだと、グロダは改めて思い知った。
だが・・・、この世には美しい花ほど踏みにじりたくなる者がいる。
グロダはそちら側の人間だった。
「さて、どんな牝に堕とすか・・・」
グロダの能力『設定変更』ではあまりに無理な変更は出来ない。
本人の性格や特性、自分でも気づいていない性癖などに合わせて堕としていくしかないのだ。
今までも、『清純な聖女』を本人の欲望を暴き『セックス中毒の淫婦』に、誰よりも『気高い女帝』を性癖にそった『牝豚マゾ』に変えてきた。
趣味、嗜好、家族、肉体的特徴。本人も知らないようなセレナのプロフィールを確認しながら、グロダは考える。
(・・・この女は誇り高い孤高の銀狼族の末裔であったな。とすると・・・・)
グロダが、セレナの内心のコンプレックスを捲る。
確かに気質に『孤高』の値がかなり高いが、同時に『帰属欲求』もかなり高い。
王国や騎士団の仲間を、自分の疑似家族と見なし強い執着があるようだ。
(幼少期にプレイヤーによって銀狼族が全滅させられているのか、狂気のレベルで剣に打ち込んだり、騎士団の仲間に執着するのもそれが原因だな。)
また、愛着欲求もかなり高く、 『幸福な家族』への強い憧れがあるようだ。
(フンッ、一匹狼を気取っていても、しょせんは群れでしか生きていけない犬らしいな)
改めてセレナの幼さを残す凛々しい美貌を見つめながら、グロダはこの美少女をどのように『堕とす』かを決断した。
「最後の銀狼族か・・・」
「良いだろう。お前は『牝犬』として服従させてやる」
「誇り高い『銀狼族』から、『牝犬奴隷』に堕として俺が飼ってやるよ」
「ご主人様に絶対服従し、媚びながら寵愛を得ることに何よりの悦びを感じる、淫らで惨めで幸福な牝犬奴隷にな!」
意識の無いセレナに向かって、グロダが強く語り掛ける。
それはまるで、残酷な運命を告げる神の託宣のようであった。
グロダ指が、虚空のステータスボードを滑るように撫で、セレナへの改造を施していく。
『設定変更』ではあまりに無理な変更は出来ない。だが、これから行う『調教』の『土台』として効果的な精神と肉体に変更をしておくことで、調教の効果を何倍にも高めることが出来る。
それはまるで、自然界にもある麻薬が、化学処理によって何百倍もの効果を発揮するように、途轍もない効果を発揮することが出来るのだ。
まずは、今ある『幸福な家庭関係』の願望に『主人への服従』を付け加える。
両方とも他者への関係性に対する湿度の高い欲望であり、心への負担が少なくスムーズに融合されるはずだ。
セレナの心のコア部分、プライドや復讐心、貞操観念などには手を加えず、徐々に調教で変化させていく方針を取る。
これらの心の根幹に触れることは心身に大きな負担をかけるため、『設定変更』は危険すぎるのだ。

次にグロダは、セレナ肉体の設定を開く。調教を受け入れ易いように改造するのだ。
(・・・当然、処女か)
ステータスボードで性成熟状況を確認しながら、肉体の感度を確認していく。
まずセレナの全身の性感を、壊れない程度に上げていく。
女性器や乳房だけでなく、全身の皮膚や耳、肛門に至るまで気持ちよく感じやすいように改造する。
もっとも、これで淫乱になり過ぎたり、心が耐えきれず発狂されても困る。
本人の性格・性質に合わせ『良い塩梅』に調整していく。
グロダは転生後、数多くの牝奴隷を調教してきた経験から、調教技術やコツを掴んでおり、『設定変更』の能力と相まって、その調教技術はもはや神業とも呼べる域に達していた。
次にセレナの性感の相性値を、グロダ自身と最高になるよう設定した。
女性器を中心とした性感細胞の配置はもちろん、声色や体臭や体液の味の好み、体温や最も気持ちの良い射精のタイミングまでグロダに合わせて固定されていく。
これで何億人といる人間の中で、セレナにとって自分を最も気持ちよく出来る肉体が、グロダに固定された事になる。
もっとも『好みの方向性』が設定されただけで、まだまだ育っていない若芽のようなものではあるが。
肉体と精神に淫獄の種を植え付けると、、グロダは次にセレナの性癖の部分を表示した。
その牝の個性にあった性癖を付ける事で、より効果的な調教を進めるのだ。
表示したセレナの性癖には、特殊性癖は特にない。
プレイヤーへの復讐のため、心身を鍛える事に必死で、それどころでは無かったのだろう。
(・・そういえばコイツは銀狼族だったな・・・ならば・・・)
犬の鼻には約3億もの嗅覚受容体があり、人間の1万倍から10万倍も優れた嗅覚を持っている。
犬程ではないが、銀狼族も嗅覚受容器官が非常に発達している。
匂いの情報は、嗅覚神経を通じて脳の「記憶」や「感情」をつかさどる部分に直接伝わる。そのため、匂いはほかの感覚よりも強く心を揺さぶり、思い出を鮮やかによみがえらせる力がある。
特定の香りをかいだときに記憶がよみがえるのも、嗅覚がダイレクトに脳に働きかけるからだ。
「人間の何百倍も敏感な銀狼族の嗅覚に、直接『牝の快楽』が結びついたらどうなると思う?」
グロダは、意識の無いセレナにそう問いかける。
それは、セレナの脳が『雄の臭い』によって蹂躙されることを意味する。
匂いに性感中枢が刺激されることで、『牝の快楽』を増幅させる。
人間よりも数段鋭い嗅覚を持つ銀狼族であれば、その効果は絶大だろう。
微かな臭いに反応し、脳をグチャグチャにかき混ぜられ、発情し、愛液を垂れ流す。
その匂いの根源であるグロダに、無様に媚びる牝犬になるのだ。
グロダは、セレナの性癖に『匂いフェチ』を追加する。
すると、自動で性癖に『体液味フェチ』が追加された。
「おっと、これは初めてだな、臭覚が鋭いとこんな事になるのか。確かに味覚と臭覚は連鎖している」
グロダが驚きの声をあげる。
「だが両方とも牝犬に相応しい性癖だろう」
先程施した、臭いの好みとも相まって、効果的な性癖として機能するはずだ。
(あまり色々つけると壊れやすくなるからな、そうだな後は・・・)
『服従性癖』と『被飼育性癖』をセレナに植え付ける。
「元々狼は、群れのヒエラルキーの中で生きている生き物だ。先ほどの『主人への服従』の変更と合わせ、お前にはナチュラルに馴染むだろう」
グロダは誰に聞かせるでもなくそんなひとり言を言いながら、セレナの『設定変更』を続けていった。
「最後に、そうだな」
グロダは『設定変更』でセレナに『キス好き』を付与する。
これはグロダが牝を調教する際は、必ず行う『設定変更』である。
キスは赤ん坊の頃からの人間の根源的欲求に基づく行為である。
『キス好き』の設定をすることで、キスをする度に安心感と幸福感を得られる事なり、過酷な牝犬奴隷調教の中でも精神的に安定するのだ。
もっとも、大抵はその効果の大きさから『キス好き』→『キスマニア』→『キス中毒』と堕ちていってしまうが。
「『匂いフェチ』で『体液味フェチ』のお前には、より効果が大きいだろうよ」
そう言ってグロダは一人苦笑した。
夜が明け、窓から朝の柔らかな光が差し込む頃、グロダは最後の仕上げを終えた。
「・・・よし良いだろう」
グロダは深く息を吐き、汗を拭う。
「良い感じに仕上がったな・・・。これからお前を立派な牝犬奴隷に調教してやるよ」
恐ろしい『設定変更』を受けたとも知らず、セレナは静かに寝息を立て、その大きな胸を上下させていた。
寝ているセレナの頬に触れながらグロダが告げる。
「新しい世界の目覚めを、楽しみにしているが良い」
グロダは満足げに笑う。その笑みは、狂気に満ちた何かを宿していた。